まずは『冬期限定ボンボンショコラ事件』発売おめでとうございます!
なんと秋期から15年だそうですね。15年待ったみたいですよ。いやはや。
「完結編」と銘打たれているので、本当に終わってしまったんだな~となかなか言葉にできない気持ちなんですけれどもぼちぼち感想など吐き出したいと思います。
まとまりのないつたない感想ですが、お付き合いください。
※ネタバレしてます!ご注意を!
※わりと中学生小鳩くんのことぼろくそに言ってます。ごめんなさい。
はじめに
最初に言いたいのは、本当に本当に最高のラストでした!ということです。
私が想像していた以上に爽やかな締めくくり方で正直言うとほっとしました。
余談ですが、4/29のサイン会に参加させていただいた時に先生にこれをお伝えしたら
「どんな終わり方を想像されていたんですか笑」
と笑われてしまいました。
いや、だってねえ……みんな一度ならず二度、三度最悪な想像はしましたよね。
序章
かけがえがないことに気づいた、と言い直してもいい。⑴
今回冬期を読んでいて思ったのが、「小市民」というワードの登場の少なさでした。
もちろん中学時代に「小市民」という名称が決定した記念すべき瞬間はでてきますが、それ以外の現在の時間軸ではほとんど小鳩くんが口にしない。
せいぜい過去の回想とかあらすじ的な感じででてくるだけです。
春~秋ではことあるごとに小市民小市民うるさかったのに!
まあ引用した部分からも読み取れるんですが、秋期以降小佐内さんとの関係も少し変化して、小市民というお題目がなくとも一緒にいられるようになって。
小市民たれ、という強迫観念が薄くなってもう少し自然体でいられるようになったのかなと思いました。
第一章
当時付き合っていた彼女について、吉口さんから噂を伝え聞いたことがある。⑵
うがちすぎかもしれませんが、「あっ、名前すら出さないんだ……ふうん」と思いましたまる。
まあそれは置いといて、ここの健吾が本当にいいやつなんですよ。
「受験なんだ」と小鳩君の頼みを断るわけですが、これもむしろ安請け合いせずきっぱり断るのは誠実な対応だな、健吾いいやつだなと私は思ってました。
しかし彼はその上をいっていた。
最後に明かされますがちゃんと調べてあげてたんですよね。しかもそれを一言も小鳩くんに伝えることなく。
健吾まじでいいやつ。
〈小市民〉シリーズの中では彼は群を抜いてまともな人間だと思うんですが、むしろ米澤作品全般を通しても一番"普通"で"まとも"なんじゃないかと思いますね。
ありがとう
ごめんなさい
ゆるさないから
小佐内⑶
みなさんご存知の通り、ここの部分だけTwitterで出回り(私はしつこくTwitterと言い続けます)界隈がざわつきました。
いろいろな憶測が飛び交いましたがなんのことはない、
「犯人を!」という吹き出しついとるんかーい!!!
完全にミスリードされましたよ(笑)
まあこれはこれでお祭りさわぎで楽しかったですね。
第二章
ここから中学時代の回想がはじまるわけですが、いやあ、読み進めるのがつらかった。
口が悪くて本当に申し訳ないのですが中学生小鳩くん、イキリクソガキムーブがすぎる。
(以後、小鳩くん(中)、小鳩くん(高)と表記します。)
しかも我々読者は中学時代に関しては詳細は分からずとも結末はすでに知ってるわけです。
断頭台に一段一段登っていくのを無理やり見せられているこの感じ。
私はいい大人なので、中学生高校生のやらかしくらい広い心で俯瞰して見られるかと思いきや、普通に張り倒したかったですね。
まあ、中学時代と高校時代を対比させるためにそう思わせるのもある程度作者の狙いだとは思うんですが、それは分かりつつも読むのがつらかった。
ぼくはいくつかの感慨を抱いた。隠し事を看破して相手を追い詰める、これはなかなか、面白い。癖になりそうだ。⑷
ぼくはこれまでの中学校生活で、幾つかの謎を人に先んじて解いてきた。今回の轢き逃げ事件ではいくつか失敗したこともたしかだけれど、それでこれまでの栄光が消え去るわけではない。⑸
これは小鳩くん(中)の語録の一部でしかないわけですが、瓜野くんがかわいく思えてくるレベル。
自尊心と全能感の高さは瓜野くん以上で、これがぼっきり折られたらそれは今の小鳩くん(高)ができあがるよなあとある意味納得しました。
(高校生になっても少し漏れ出ちゃってる時あるけど)
いろいろ言いましたけど、決して小鳩くんのことが嫌いなわけではなく、やっぱりこれも含めて小鳩くんなんだなと思ってます。
あと、小鳩くんが剣道経験者というの初めてでてきましたよね?
ここに来てあらたな属性が……!
そして狼のぬいぐるみかわいい。文字でしか見てないけどかわいいのがもうわかる。
自作する人でてきそうですね待ってます。
第三章
小鳩くんと小佐内さんの出会い。
冬期が出る前から二人の出会いを見たい見たいとは言っていたんですが、いざお出しされると、なんというかとても感慨深い。
こんなにあっさり二人の出会いが判明して良いのだろうか……。
しかも章題が「わたしたち本当に出会うべきだったのかな」。
これ作中で実際言ってるのは小鳩くんなのに、章題だと明らかに小佐内さんの言葉なのが意味深。
第四章
「こんばんは」 小佐内さんは眉一つ動かさず、応じた。
「おわあ、こんばんは」⑹
ここの小佐内さんの心情が本当によく分からない。
「おわあ」って何!? 「おわあ」って!? どういう感情なの!?
私が知らないだけで何かのパロディ?暗喩?
この後現在の時間軸パートでもこの言葉出てくるけど結局詳しい説明なかったな……。
話は全然変わるんですけど恥ずかしながら「味噌汁の実」という言い方はこの章で初めて知りました。
調べてみるとむしろ「味噌汁の具」よりも正式な言い方みたいですね。
第五章
『とっても、ある。わたしがまるで小学生みたいに小さいっていうのは、わたしが見たことも聞いたことも一切信じられないっていう、充分な理由になるの』⑺
小佐内さんの心情は一貫してブラックボックスで多く語られることはなかったので、ここは少し驚きました。
ほんの少しだけ小佐内さんの心の一端に触れることができたのかなと勝手に思ってます。
高校生小佐内さんの心はある意味鉄壁だったけどやっぱり中学生の頃はこんなことを漏らしてしまうくらいには隙があったのでしょうか。
冬期では小佐内さん視点あるかな~とほんの少しだけ期待したんですが、今思うとやっぱり無くてよかったなと。
読みたい気はするんですが、読んだら自分の中の小佐内さん像が壊れてしまう気がして本当に勝手ながら怖くもあります。
第六章
いつか小佐内さんの御家族に会う日が来るとは思えない。⑻
あなた会いましたよ。良かったね。(にやにや)
ブリリアントサンデーにちいさくばんざいする小佐内さんかわいいよ小佐内さん。
ここらへんではもう完全に小鳩くんにはスイーツ狂いなこと見抜かれてますよね。
第七章
駅ビル内の「モスバーガー」で待ち合わせするシーン。まさかの固有名詞。
夏期ではあくまでも「ハンバーガーショップ」だったのに。
(先駆者たちによりここのハンバーガーショップは岐阜駅の駅ビルあるモスバーガーだと特定されてます)
ちょうど今年の3月に岐阜へ小市民の聖地巡礼に行ってきたので、その時にモスバーガーの写真も撮っていました。
「同じ駅ビルの本屋」はこの三省堂書店かな……?
モスバーガーの正面にあります。
突然固有名詞が出てきたことにちょっと興奮しました。
「そうね。ちょっと、聡明さが足りないかな。それと狡猾さも。人の動かし方も、もう少しだけ上手でもいいかなって思ってた。あと、ちょっとだけ猜疑心も必要。(中略)「そんなことだろうと、思っていたのよ」⑼
いきなり秋期の引用します。
冬期を読んで、小佐内さんの中で瓜野くんと小鳩くん(中)を分けたものはなんだろう、というのをずっと考えていました。
小佐内さんに勝手にキスをしようとするという許されざる行為をしようとしたのはひとまず置いておくとして。
正直瓜野くんも小鳩くん(中)もどっこいどっこいな気がするんですけど。むしろ小鳩くんのほうがいろいろやらかしてるんですけど。
しかし、かたや瓜野くんは見限られ、かたや小鳩くん(中)は互恵関係を継続された。
まあ、秋期の段階だと明らかに比較対象が小鳩くん(高)で、基準が小鳩くん(高)なのでね。ハードルが上がっている。
中学生小佐内さんの中にはまた別の比較対象がいたはず。
「小鳩くんは気づいてないかもしれないけど、自分が間違ったと思った時、そうだねって言えるのはすごいと思う」⑽
それに、不思議なほど最初から小佐内さんは小鳩くん(中)のいいところをちゃんと見つけてくれてるんですよね。
(瓜野くんにはけっこうダメ出しもしてませんでしたっけ……。)
正直私は「誰かこいつを止めてくれー!」という心情で目が曇りまくっていて、小佐内さんに言われるまで小鳩くん(中)のいいところ見つけられなかったよ……。
もし瓜野くんと小佐内さんがお互い中学時代に出会っていたら瓜野くんは彼女の"次善"になれただろうかとも考えたんですが、やっぱりそれはないかな。
第十章・第十一章
やっと中学生パートが終わった……!
何度も言いますが本当に読むのがつらかった。
例えばこの中学生の話がシリーズの一番最初だったら、日坂くんに詰め寄られたのも、轢かれかけたのも『ざまあみろ』と思っていたと思います。
でも私はすでに春、夏、秋(そして巴里)を通して彼ら二人のことを好きになってしまったから、どんなに小鳩くん(中)にイラついても憎みきれない。
とは言うもののやっぱり小鳩くんは百パーセント悪くないとは言い切れない。
でもそれは本人が一番分かっていて、中学時代を「ひとりよがりの善意」と自覚したところは胸が痛かった。
日坂くんの「なあ。おまえ、鬱陶しいよ」という言葉、ここから春期の冒頭に繋がるんですよね。
春期冒頭は特定の誰かではなくあくまで小鳩くんの夢の中だけど「鬱陶しい」というワードはそのままです。
たぶんずっと心の片隅にあったんだと思います。
ちなみにフォロワーさんとリアルで冬期の話をする機会があり、「小鳩くん、『お前うぜえんだよ』って言われてましたね……」と言ってしまったんですが、読み返したら「鬱陶しいよ」でした。うぜえは私の心の声でした。ごめんなさい。
「おやすみ小鳩くん。わたしの次善。あなたが生きていてよかった。お大事にね。そしてどうぞ、よいお年を」⑾
最後のこれは不意打ちでした。ああ、ここでこの言葉を持ってくるのか、と。
言わずもがな、秋期の
(前略)白馬の王子様がわたしの前に現れるまでは。……わたしにとってはあなたが、次善の選択肢だと思う。だから」⑿
に対応する言葉です。
解説で以下の通り松浦正人さんが書いていたことに、首がもげるほど同意しました。
小佐内さんが「わたしの次善」と呼びかけた声音は、きっとこのうえなく優しいものだったに違いない、と。⒀
文字だけなのに小佐内さんの優しい声が耳元で聞こえた気がしました。
言っている言葉は同じはずなのに、秋期と冬期の「次善」の意味合いは全く違うものだと思います。
遠いいつかの未来、小佐内さんが息を引き取る時、それを看取る小鳩くんに「わたしの最善」って優しくささやいてほしい。
(唐突に老後の話をし始める強火オタク。)
それはそれとして京都編は見たい。
最初に小鳩くんは名古屋、小佐内さんさんは京都、と進路が出てきた時、正直すんなり「あ~別離エンドかあ……」と受け入れてしまった自分がいました。
それがまさか最後に同じ進路に進む未来が示唆されるとは。
しかもこれ小佐内さんから言った、というのが重要なんですよ。
何の駆け引きも誤魔化しもなく「私が京都の大学を受けるから」ただ一言。
最初に言いましたが、本当に思っていたよりずっと爽やかな終わり方でした。
ただ、爽やかなだけではなくやはりどこかほろ苦さもあり、結局小鳩くんは日坂姉弟にしたことをずっと背負っていかなければいけない。
むしろ大人になればなるほどこの日のことは重く彼にのしかかっていくのではと思います。
最後に
4/29に新宿紀伊國屋のサイン会に参加してきました!
その際先生に
普通のチョコレートではなくボンボンショコラとしたのはなにか意味があるのか?
ということをおうかがいしました。
先生いわく、
- アントニイ・バークリーの『毒入りチョコレート事件』を意識。
- 最初は「チョコレートボンボン」にしようと思っていた。
- 最近はあまりそういう言い方はしないので今風の「ボンボンショコラ」にした。
とのことです!
本当に本当に素敵な作品を生み出してくださりありがとうございます。
これからも、この先も、ずっと大好きです。
引用:
⑴米澤穂信. 冬期限定ボンボンショコラ事件. 東京創元社, 2024, p.10 .
⑵同上, p.26 .
⑶同上, p.45 .
⑷同上, p.227 .
⑸同上, p.234 .
⑹同上, p.123 .
⑺同上, p.157 .
⑻同上, p.201 .
⑼米澤穂信. 秋期限定栗きんとん事件〈下〉. 東京創元社, 2009, p.156-157 .
⑽米澤穂信. 冬期限定ボンボンショコラ事件. 東京創元社, 2024, p.241 .
⑾同上, p.382 .
⑿米澤穂信. 秋期限定栗きんとん事件〈下〉. 東京創元社, 2009, p.180-181 .
⒀米澤穂信. 冬期限定ボンボンショコラ事件. 東京創元社, 2024, p.241 .